「ラストワンセット! 休まない!」
「ふう! ふう! ふう! ふう!」
筋力だ!
汗だ!
揺れる腰の脂肪だ! ……これは違うな!
ジークを痩せさせることに成功した俺は、本格的に筋力トレーニングを開始した。
俺が真っ先に指示した訓練は、筋力強化のためのストレングストレーニング。
ストレングストレーニングとは、筋肉の力を向上させるための運動で、スクワット、デッドリフト、ベンチプレスの三つが代表的だ。
この訓練では、急激な減量で垂れてしまった脂肪を引き締める美容的な効果が見込めるのは勿論、筋力をかなり強化することが出来る。
ジークガイ・フリードには、とにかく筋力が足りない。
言い切ってもいい。こいつは今、ザクⅠの状態だ。
減量をすると、筋肉も、脂肪と共に急速に減るもの。
俺は、奴のストレングスの基盤を作るために、下半身と腹筋の訓練から取り掛かった。高難易度の動作は後日でいい。
腹筋を鍛える、最も手っ取り早くわかりやすい運動。
上体起こしだ!
ワンセット二十回を五セット! まずはこれから始める!
「まだいけるか? もうワンセット行くぞ!?」
しかし……このザク野郎、思ったより意志が強い。
二十回ずつ五セットをやり遂げたのにも関わらず、まだ動けるようだ。
もう少しやらせてみるか……?
「も、もうワンセットどうだ……?」
「ふうっ! ふう! ふうう!」
「もうワンセット……!?」
「ふっ! ふう! ふおお!」
「よし! くたばるまでやるぞ! もう三セット!」
奇跡は、実際に起きるものだった。
なんとザクは、上体起こしを五十回ずつ、二十セットもこなした。
あり得なくないか!? 普段から鍛えている筋肉質の男でも厳しい量だぞ?
「五十メートル全力疾走と、五十メートル歩きの反復を五回、ワンセット! 行け、ジーク!」
とても信じられなかったので、試しにコンディショニングトレーニングも始めてみた。
パフォーマンスを高め、瞬時に爆発的な力を出せるようにするためのトレーニングである。短距離走を反復して行う運動が効果的だ。
奴が走る。
「もうワンセット……!」
「はっ、はっ、はっ、はあ……!」
呼吸が規則的だ。
「もう……ワンセット……!」
「はあ、はあ、はあ! 体が……軽い……!」
奴が爽やかな表情をしている。
数週間前、肉体起動の限度が三分だった奴とは、まるで別人だ。
カラータイマーを抜いてしまったのか? ケーブルでも繋いだのか!? これは三分……いや、五分以上動けるだけ、なんてレベルではないぞ!?
「体が……! 羽のように軽いでござる! いくらでも走れそうでござるよ……!」
あははは、と爽やかに笑いながら、実に楽しそうに走っている。
いくら何でも、これは「奇跡」の一言で片付けられる数値ではない。
今ジークがこなしたトレーニングの回数は、そこそこのプロの運動選手の、一日のトレーニング量の数倍にはなる。
「も、もうワンセット……?」
俺らしくもなく、控え目に尋ねた。奴の今のペースで進んでいけば、厳しい教官であるこの俺さえも、戸惑わずにはいられない運動量になる。
電池の切れたラジコンのように、突然リタイアするのではないだろうか? という不安も、正直持っていた。
だが、そんな心配をしたことが恥ずかしくなる程に、奴はピンピンしている。十セットは勿論、百セットもこなせそうな勢いだ。
何がどうなっているんだ……。
本当にこいつが、あの量産型のザクなのか?
「はあ……はあ……はっ……。また……何か、ないでござるか? パリル殿……まだ、動けるでござるよ……」
「と、とりあえずオーバーワークは禁物だから……シャワーを浴びて、マッサージをしてから夕食といこうか……トレーニングから三十分以内に炭水化物を摂取すると、筋肉増強に効果的なんだ……行くぞ、何か作ってやる」
「すごいでござる! パリル殿は何でも知ってるでござるな! さすが貴族でござる!」
本物の貴族なら、全く知る必要のない知識だけどな……。
まあ、今はそんな話は重要ではない。
元の世界で体得していたトレーニング理論を、ジークに適用させながら、確実に気づいたことがひとつある。
それはジークの……いや、勇者の身体能力は、地球人のそれとは次元が違うということだ。
豚だったジークの相手ばかりしていたから忘れていたが、この世界では至極当然の事実。
勇者は、この世界の平民とは次元が違う肉体能力を持っている!
ジークの野郎も、勇者候補の一人だ。
今まで、極度の肥満と、それに伴う心臓疾患と各種合併症のせいで、しっかり発揮されてなかった彼の肉体能力が、この度の減量で解き放たれたのだ。
その威力は、凄まじかった。
ここまでの効率なら、十日程のトレーニングだけでも、すごい変化が起きるかもしれない。
この調子で、俺のトレーニング理論と健康食の並行が続けば……
期待の戦慄が肌を走った。
奴は、長かったダイエットの日々によくぞ耐えてくれた。
残った時間は、十日程。
その間こいつは、俺が伝授する知識と各種訓練で、どれだけ成長するのだろう?
こいつの変化していく姿が正直、楽しみだ。
これが親の気持ちか……? いや、部下の成長を見守る上司のやりがいか?
「ふう! ふう! ふう! ふう!」
筋力だ!
汗だ!
揺れる腰の脂肪だ! ……これは違うな!
ジークを痩せさせることに成功した俺は、本格的に筋力トレーニングを開始した。
俺が真っ先に指示した訓練は、筋力強化のためのストレングストレーニング。
ストレングストレーニングとは、筋肉の力を向上させるための運動で、スクワット、デッドリフト、ベンチプレスの三つが代表的だ。
この訓練では、急激な減量で垂れてしまった脂肪を引き締める美容的な効果が見込めるのは勿論、筋力をかなり強化することが出来る。
ジークガイ・フリードには、とにかく筋力が足りない。
言い切ってもいい。こいつは今、ザクⅠの状態だ。
減量をすると、筋肉も、脂肪と共に急速に減るもの。
俺は、奴のストレングスの基盤を作るために、下半身と腹筋の訓練から取り掛かった。高難易度の動作は後日でいい。
腹筋を鍛える、最も手っ取り早くわかりやすい運動。
上体起こしだ!
ワンセット二十回を五セット! まずはこれから始める!
「まだいけるか? もうワンセット行くぞ!?」
しかし……このザク野郎、思ったより意志が強い。
二十回ずつ五セットをやり遂げたのにも関わらず、まだ動けるようだ。
もう少しやらせてみるか……?
「も、もうワンセットどうだ……?」
「ふうっ! ふう! ふうう!」
「もうワンセット……!?」
「ふっ! ふう! ふおお!」
「よし! くたばるまでやるぞ! もう三セット!」
奇跡は、実際に起きるものだった。
なんとザクは、上体起こしを五十回ずつ、二十セットもこなした。
あり得なくないか!? 普段から鍛えている筋肉質の男でも厳しい量だぞ?
「五十メートル全力疾走と、五十メートル歩きの反復を五回、ワンセット! 行け、ジーク!」
とても信じられなかったので、試しにコンディショニングトレーニングも始めてみた。
パフォーマンスを高め、瞬時に爆発的な力を出せるようにするためのトレーニングである。短距離走を反復して行う運動が効果的だ。
奴が走る。
「もうワンセット……!」
「はっ、はっ、はっ、はあ……!」
呼吸が規則的だ。
「もう……ワンセット……!」
「はあ、はあ、はあ! 体が……軽い……!」
奴が爽やかな表情をしている。
数週間前、肉体起動の限度が三分だった奴とは、まるで別人だ。
カラータイマーを抜いてしまったのか? ケーブルでも繋いだのか!? これは三分……いや、五分以上動けるだけ、なんてレベルではないぞ!?
「体が……! 羽のように軽いでござる! いくらでも走れそうでござるよ……!」
あははは、と爽やかに笑いながら、実に楽しそうに走っている。
いくら何でも、これは「奇跡」の一言で片付けられる数値ではない。
今ジークがこなしたトレーニングの回数は、そこそこのプロの運動選手の、一日のトレーニング量の数倍にはなる。
「も、もうワンセット……?」
俺らしくもなく、控え目に尋ねた。奴の今のペースで進んでいけば、厳しい教官であるこの俺さえも、戸惑わずにはいられない運動量になる。
電池の切れたラジコンのように、突然リタイアするのではないだろうか? という不安も、正直持っていた。
だが、そんな心配をしたことが恥ずかしくなる程に、奴はピンピンしている。十セットは勿論、百セットもこなせそうな勢いだ。
何がどうなっているんだ……。
本当にこいつが、あの量産型のザクなのか?
「はあ……はあ……はっ……。また……何か、ないでござるか? パリル殿……まだ、動けるでござるよ……」
「と、とりあえずオーバーワークは禁物だから……シャワーを浴びて、マッサージをしてから夕食といこうか……トレーニングから三十分以内に炭水化物を摂取すると、筋肉増強に効果的なんだ……行くぞ、何か作ってやる」
「すごいでござる! パリル殿は何でも知ってるでござるな! さすが貴族でござる!」
本物の貴族なら、全く知る必要のない知識だけどな……。
まあ、今はそんな話は重要ではない。
元の世界で体得していたトレーニング理論を、ジークに適用させながら、確実に気づいたことがひとつある。
それはジークの……いや、勇者の身体能力は、地球人のそれとは次元が違うということだ。
豚だったジークの相手ばかりしていたから忘れていたが、この世界では至極当然の事実。
勇者は、この世界の平民とは次元が違う肉体能力を持っている!
ジークの野郎も、勇者候補の一人だ。
今まで、極度の肥満と、それに伴う心臓疾患と各種合併症のせいで、しっかり発揮されてなかった彼の肉体能力が、この度の減量で解き放たれたのだ。
その威力は、凄まじかった。
ここまでの効率なら、十日程のトレーニングだけでも、すごい変化が起きるかもしれない。
この調子で、俺のトレーニング理論と健康食の並行が続けば……
期待の戦慄が肌を走った。
奴は、長かったダイエットの日々によくぞ耐えてくれた。
残った時間は、十日程。
その間こいつは、俺が伝授する知識と各種訓練で、どれだけ成長するのだろう?
こいつの変化していく姿が正直、楽しみだ。
これが親の気持ちか……? いや、部下の成長を見守る上司のやりがいか?